白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 テーブルを挟んで静かに睨み合い、公爵は傍聴席へと戻って行った。レミリアとクロードの忌々しげな目線も物ともせず、右端のテーブルに腰を下ろす。

「真ん中に陣取るほどのふてぶてしさはさすがにないのね」

 レミリアは敵意も剥き出しに呟くと、それっきりスタンレー公爵から視線を外した。思った以上に険悪な雰囲気だが、正面の貴族たちはあえて素知らぬ振りをしているのか、手元の資料に目を通している。


 クロードの顔を見ようとしたその時、室内に鐘の音が鳴り響いた。

 全員の視線が奥の扉に注がれる。もちろんロゼリエッタも例外ではない。扉が開くのに合わせて立ち上がり、深々と頭を下げた。

「皆の者、顔を上げて被告以外は着席せよ」

 衛兵を二人従えた壮年の紳士の、威厳に満ちた声が途端に場を支配する。


 王と言葉を交わした機会は少ない。けれど優しい王だという印象はあった。

 それが今や、その登場だけで場の空気を張り詰めさせている。レミリアもまた、父王の姿に表情を強張らせ、次の言葉を待っていた。


 虚偽の証言はしないというクロードの宣誓の後、最も王に近い席を宛がわれた貴族が罪状を読み上げる。


 隣国の王太子マーガスに振る舞った紅茶に毒薬を仕込み、暗殺を謀った。

 でもそんなのは、少し考えたらつじつまの合わないことだらけだ。なのにクロードは、犯してもいない罪を認める為にこの場に立っている。

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