白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 レミリアが自らのハンカチで、そっと涙を拭ってくれる。

 姉が親しみや慈しみを込めて妹にするような優しい手つきだ。ロゼリエッタがゆっくりと顔を上げると同時に、凛とした声が耳に届いた。

「――なるほど。それが公爵の切り札だったというわけですか」

 それまで頑なに沈黙を守っていたクロードが初めて口を開いたのだ。

 クロードが視線を向けると、レミリアは心得ていると言わんばかりに立ち上がった。

「スタンレー公爵に、わたくしからお聞きしたいことがあります。もちろんお答え下さいますね」

「何なりと、王女殿下」

 公爵は位は上でも、年齢は親子ほど離れたレミリア相手には芝居がかった礼をする。

 王女に対して不敬極まりない態度だが、マーガスの後ろに従う仮面の騎士の正体について尋ねた時と同じだ。スタンレー公爵は未だレミリアをたかが王女と軽んじている節があった。

「ではお言葉に甘えて。公爵は先程、ハンカチが落ちていたと、マーガス殿下がお命を狙われた場にいた侍女から渡されたと証言しましたね」

「ええ、そう申し上げました」

「それならおかしくはありません?」

 レミリアは愛らしく首を傾げた。

 けれどその目は笑ってなどいない。目の前にいるのは国に忠誠を誓う臣下などではなく、愛する婚約者に敵対する者だと認識している。

「何か疑問点でも?」

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