白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「ロゼリエッタ嬢は、彼女が幼き頃より私も見知った令嬢にございます。王太子殿下暗殺などという、恐ろしい大罪があかるみになる前に、せめてもの良心で自ら罪を認めてくれたらと。それまでは私の胸にしまっておこうと考えたのです」

 そして出来の悪い子供を嘆くように首を振った。

「まさか事件の翌日に、父上の治める領地へ逃げるように向かおうとしていたとは思いもよりませんでしたが」

「そんな……」

 あまりの言い草にロゼリエッタから血の気が引いた。


 特別可愛がってくれていたわけではない。

 それでも、血縁関係がない貴族としては十分なくらい可愛がってくれていると思っていた。


 震える肩に白い指先が添えられる。

 レミリアの手だ。

「絶対に俯いてはだめ。あなたは無実なのだから、堂々と振る舞えばいいわ」

 その手の温かさがロゼリエッタに勇気を与えてくれる。侮蔑の言葉を受けてもなお、スタンレー公爵から目を離さなかった。

 ここで苦しさから目を逸らせば、捻じ曲がった事実こそが真実だとすり替えられてしまうかもしれない。ささやかで意味がないかもしれないけれど、せめてもの抵抗だった。

「質問を変えましょう」

 もう大丈夫だと伝わったのか、ロゼリエッタの肩から手を離してレミリアの追及は続く。

「ロゼリエッタ嬢があの時、王城にいたと公爵は考えていらっしゃるのね」

「そうでなければハンカチが落ちていたことの説明はつきかねます」

「でも彼女が王城に来ていたと証明出来る者はおりません」

「やましい心があり、侍女にでも扮して忍び込んでいたのではありませんか」

 淀みなく答え、公爵は挑むような目を向けた。

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