白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
終章

43. 四葉と白詰草

「お嬢様、今日もお手紙が届いています」

「ありがとうアイリ」

 穏やかな午後の昼下がり、陽当たりの良いテラスで刺繍を嗜むロゼリエッタの元にアイリが一通の手紙を持って来た。


 あの裁判の日から半年あまりが過ぎていた。

 ロゼリエッタは父の治める領地で日々を過ごしている。元々、賑やかな王都は肌に合ってはいなかった。華やかさはないけれど落ち着いたこの地は過ごしやすく、以前より体力も少しついたように思う。


 クロードは改めて身の回りの整理をすると、マーガスと共に隣国に戻っていた。


 アーネストの忘れ形見であることは、永遠に公表されることはないらしい。

 その事実を知れば彼を慕っていた人々は喜んで受け入れてくれるだろう。でも、彼の婚約者だったかつての令嬢はきっと胸を痛める。

 何しろ婚約者が他の女性と愛を交わしていたと、二十年近く経った今さら突きつけられるのだ。アーネストが事故に遭い、婚約を解消せざるを得なくなってから、様々な苦悩や葛藤があったことだろう。


 とっくに彼女なり清算し、新たな家庭を築いているのに非常に屈辱的な仕打ちだ。

 だから隠し通したままでいい。

 隣国に渡ってほどなくして届いた手紙には、そう記してあった。


 一度だけ、スタンレー公爵についても書かれていた。

 公爵は隣国の前王弟フランツにこの国の情報を流していたこと、資金援助をしていたことなどで隣国に護送されている。極刑こそ免れたものの、相応に重い罰が課せられるようだ。

 ただ、夫人や二人の子息が連座されることはなく、夫人の母方の領地へ向かうことになるらしい。

「またクロードから?」

「はい」

 テーブルの正面で読書に耽っていた兄が尋ねる。

 彼は半月に一度くらいの頻度で、こうして会いに来てくれていた。クロードから手紙が届いていることもすでに当然知っている。かと言って、やり取りに関して口を出すことはなかった。

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