白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

8. 偽りの優しさ

 クロードが行方不明になったとの報せを受けてから五日が経った。

 幸か不幸か、四葉を探す夢はあれから一度も見てはいない。それに伴ってクロードとの思い出に浸ることもなくなっていた。


 何よりロゼリエッタは気がついてしまった。

 幸せな思い出に、クロードからの恋慕はない。あくまでも"ロゼリエッタにとっての幸せな思い出"だ。


 まだ、たった五日しか経ってない。それだけで諦められるとか忘れられるとか、判断を下すには早すぎる。ずっと微熱が出ている状態が続いているし、今は考えたくなかった。


 だけどこのまま何もない状態が続けば変わるかもしれない。

 そう思う度に、けれど今の状態は薄氷の張った水面と同じなのだと思った。

 足元にあるものが見えなくなっただけで、少しでもヒビが入ればそこから一気に瓦解して行く。そして凍えそうなほどつらい水の中になす術もなく落下するのだ。

「お嬢様、ダヴィッド様がお見舞いにいらっしゃいました。どうなさいますか?」

「ダヴィッド様が?」
 答えが出せない自分の気持ちに置き場所に関し、ぼんやりと考えているとダヴィッドの訪問がアイリから告げられた。

「まだ体調が芳しくないようでしたら、日を改めていただけますようお願い致しますが」

 仲が良い従兄ではあるものの、ダヴィッドが一人で家を訪ねて来ることは滅多にない。

 珍しい出来事に漠然とした不安を覚えたけれど、誰かと話をしたい気もした。

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