白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 婚約者としてロゼリエッタを一生守ってあげて欲しい。

 クロードは正確には、そう書いていた。


 ロゼリエッタの心がどんどん冷える。


 違う。

 そんな優しさが欲しかったんじゃない。

 たとえ一緒に連れて行くことは出来なくても、必ず帰って来るから待っていて欲しいと、そう約束して欲しかったのだ。


 そこでロゼリエッタはひどく重要なことに思い至った。

 確認をするのは恐ろしい。

 だけど今、何よりも優先して知らなければいけないほどに重要なことだ。

「ダヴィッド様、最初に、どんなお返事をいただこうと私は傷つくであろうことを申し上げておきます。そのうえで一つだけ、どうしてもお聞かせ願いことがあるのです」

 ロゼリエッタの悲壮な覚悟に満ちた声と表情とにダヴィッドも察したのだろう。いつもなら穏やかな笑みと共に「何なりとどうぞ」とでも言ってくれるはずが、わずかに目を逸らして押し黙った。

「このお手紙はいつ、受け取られたのですか」

 ダヴィッドは深く息をついた。

 ロゼリエッタを傷つけないように、そんな思いから言葉を選ぼうとする躊躇(ためら)いや迷いが生じる時点で伝わってしまう。

 それが分かっていたから、傷つくことを先に明かしたのだ。

「……二週間ほど前だよ」
 重苦しい溜め息を伴って告げられた言葉に、ロゼリエッタは身を強張らせた。

 頭が勝手に、ここ数日の出来事がいつ起こったものなのかの逆算をしはじめる。

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