白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 クロードが武力抗争に巻き込まれて行方不明になったと聞かされたのは五日前だ。

 隣国へ旅立ったことを知ったのはその前日の昼間だから六日前のことになる。けれどそれはロゼリエッタの耳に入ったタイミングだ。実際にはさらに一週間前に隣国へ向かったという。

 それだけでもう、二週間ほど前の話だ。婚約の解消をクロード本人から直接告げられたのは、正確には十六日前だった。

「そう、ですか……」

 ロゼリエッタはどこかでまだ期待していた。

 異性に対するものではなくとも妹に対する情程度なら、クロードも持ってくれていると思い込んでいたのだ。

 けれど自らの手で暴いた事実は、予想以上に残酷なものだった。

(クロード様は、最初から心を決めていらっしゃった……)

 つまりダヴィッドの下へ手紙が届けられた理由は、クロードに有事があったからではない。

 最初からダヴィッドにロゼリエッタを託すつもりで、隣国へ向かうのとタイミングを同じくして手紙を届けさせたのだ。


 隣国へ行くことが婚約解消を決意させた理由なのかは分からない。

 それでもただ一つ確かに言えることは、クロードはロゼリエッタの元に帰って来る気などなかったということだ。


 改めて突きつけられた彼の本意は、何よりも鋭い刃となってロゼリエッタの胸を刺し貫く。

「どうして。クロード様……どうして、ですか……」

 涙と共にこぼれ落ちた疑問には誰も答えてはくれない。

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