白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 自分も忙しいだろうに力になろうとしてくれている。

 嬉しくて申し訳なくて、ロゼリエッタは何と言えば良いか分からなかった。

「一度でいいから話がしたいとこちらから手紙を出したんだけど、今のところ返事は来ていない。まあ、それは置いておくとして、君にも一つ確認したいことがあってね」

 ロゼリエッタの気持ちが落ち着くのを根気よく待っていてくれたダヴィッドは、穏やかな笑みを浮かべた。

 つられたようにロゼリエッタの口角もわずかに上がった。今は無理やりにでも笑った方がいいのかもしれない。ほんの少し気持ちが楽になった気がした。

「何でしょうか」

「クロード様と君は、まだ婚約者同士の関係にあるよね?」

 一瞬、意味が分からなかった。

 クロードには面と向かってはっきりと、解消しようと言われたのだ。だからもう婚約者じゃない。――そのはずだった。


 何度も言葉を頭の中で繰り返し、ダヴィッドの言わんとすることを理解する。


 ――そうだ。


 婚約の解消はクロードがロゼリエッタにそう告げただけの話でしかない。

 そして婚約とは家同士で結ぶ契約の一種である以上、いくら爵位が上であろうとクロード個人やグランハイム公爵家だけの思惑では解消などできないのだ。

「は、はい。婚約解消は、クロード様が口頭でそう(おっしゃ)ったのみ……です」

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