白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「――ああ、ごめん。君とクロード様の婚約そのものについては、俺が立ち入っていい話じゃなかったね」

 ダヴィッドが謝罪を口にしなければいけないことなど何もない。

 けれど何をどう、どこまで話して良いのか判断がつかないロゼリエッタは首を振ることしかできなかった。

 ロゼリエッタの様子にダヴィッドは一度身を引き、再び言葉を紡ぎ直す。

「俺としては、気心の知れた君が婚約者になってくれるというのであれば何も問題はないし構わないよ。ただ他の令息と婚約状態にあるのなら当然、俺との婚約は成立しないからね。そこだけをはっきりさせておきたかったんだ」

 クロードに頼まれたからとは言え、ロゼリエッタを気遣ってくれている。


 改めてダヴィッドの優しさに触れると同時にロゼリエッタは自分が恥ずかしくなった。

 ロゼリエッタはずっと自分のことばかり考えていた。自分の気持ちしか見えてはいなかった。

「ダヴィッド様は……本当にそれでよろしいのですか?」

 ロゼリエッタとは親しい従兄同士ではあっても、特に仲が良いわけでもない。

 クロードに頼まれたと言っても、それこそダヴィッドが自らの人生のいくらかを投げ打つほどの交流や恩義はどこにもないはずだ。

「ロゼ、君がクロード様を想っているのは分かっているよ。そのうえで俺との婚約は、お互いがお互いの自由を守る為の契約だと思えばいい。俺もそろそろ相手くらい作れと両親に言われ続けるのは正直煩わしいからね。大きなメリットがないのであれば、さすがに俺も引き受けたりはしない」

 だから何も気に病むことはない。ダヴィッドはそう言ってなおも笑いかけてくれたけれど、今度は笑みを返すことはできずにいた。

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