白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
ダヴィッドの訪問からさらに三日が経過した夕食後、父の書斎へと向かうと母と兄の姿もあった。
ただごとではない様子に嫌な予感がする。
ロゼリエッタの不安を煽るかのように父は神妙な面持ちを浮かべており、その手元には二通の封書があった。
開封された状態のそれらには、ロゼリエッタにとって全く嬉しくないことが書かれているに違いない。
ロゼリエッタが兄と並んで長椅子に座るのを見届け、父は口を開く。
「グランハイム公爵家から正式に、婚約を解消したいと申し出があったよ、ロゼ。理由は君も分かるね?」
心臓に氷を直接押し当てられたような気になった。
婚約の解消という重要な事柄に対し、クロードが不確かな口頭のみで済ませ、必要な手続きをしていないわけがない。そんなのはとうに分かっていた。分かっていて、目を背けていたのだ。
「クロード様が行方知れずとなられたからですか」
かろうじて声を振り絞って答えると、父は深く頷いて続ける。
「そして王家も、解消するに至るやむを得ない事情だと判断して公爵家による申請は受理されたようだ。後はこちらが同意書を提出次第、クロード君との婚約は全て白紙になる」
ロゼリエッタは俯いた。
一方的な理由で解消したいと言われたところで同意などできるはずがない。
けれど正式な手続きを取られ、正当な理由だと王家の判断が下ってしまった以上、ロゼリエッタ一人の気持ちでは覆しようもないのだろう。
理論上は覆すことができるのかもしれない。
当事者のみでは様々な理由から穏便に済ませられないこともある。立場の弱い者がより不利な立場に落とされないよう王家の公正な裁定を求めることも、珍しくはないという話だ。