白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
(でも、私の場合は無理だわ)

 おそらくは誰が間に入ったところで、婚約は解消すべきだと言うだろう。

 生きていたとして、クロードが戻って来る保証はどこにもない。

 まだ十六歳のロゼリエッタが身を捧げるには若すぎる。


 あくまでも"ロゼリエッタの為に"と称し、もっともらしい理由は挙げられるのだ。ロゼリエッタ本人の気持ちがどこにあろうと関係ない。

 客観的に見て、どうするのが良いのか。第三者の視点を通したその結果、婚約を解消することが最善だと判断が下された。


 もう本当に、気持ちの上だけでなく立場の上でも、ロゼリエッタはクロードの婚約者ではなくなってしまった。

「ロゼ、もう我慢なんてしなくていい。泣いていいんだ」

 黙って話を聞いていたレオニールがそっと肩を抱いた。けれどロゼリエッタは唇を噛んで首を振る。


 心が死んでしまったかのように、悲しみは沸いて来なかった。

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