白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 話しかけられて顔を上げる。

 先日と言うには些か日が経ちすぎてはいるけれど、王城での夜会とはクロードと共に行った日のことだろう。二人で公の場に出た、最後の日だ。

「はい。――レミリア王女殿下に招待状をいただきました」

「西門で不審な男が暴れていたとか」

「スタンレー公爵閣下もご参列なさっていたのですか?」

 当日の様子を知っているような口ぶりにロゼリエッタは尋ねる。

 そうだとしたら、知らなかったとは言え挨拶をしに行ってない。無礼を詫びようとするとスタンレー公爵は右手で制し、苦笑を浮かべた。

「あの夜会はレミリア殿下主催の、君たちのような若い貴族子女だけが招待されていたから私は参列してはいないよ。あの日はちょうど、仕事にらしくもなく手間取ってしまっていてね。帰ろうとしたら騒ぎに遭遇したんだ」

「そうだったのですね」

 ロゼリエッタは安堵の息をつく。

 もっとも、途中で別行動になりはしたけれどクロードも一緒だったのだ。スタンレー公爵があの場にいたら、挨拶に向かっていたに違いない。


 結局、あの時の騒ぎは何が起きていたのだろう。自分のことばかりにかまけていたこともあり、未だに何も知らないままだ。

 父や兄に聞けば教えてくれるのかもしれない。でも夜会に関することを自ら進んで思い出す気にはなれなかった。

< 62 / 270 >

この作品をシェア

pagetop