白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

14. 閉ざしたその奥にあるもの

「君にはとても、つらい任務を負わせてしまっているな」

 夜も更け、華やかな場もそろそろ閉幕を迎えようというタイミングで一足先に客室へ戻るなり、若き主は口を開いた。

「いいえ。全て最初から分かっていたことです」

 煌々とした灯りに照らされた室内には彼ら二人以外には誰もいない。身の回りの世話をする為の侍女も全員引き揚げさせていた。それでも騎士はなお、移動で生じたわずかな仮面のずれを指先で直しながら感情のこもらない声で答える。

 そう。全て分かっていたことだ。

 にも拘わらず目を背け、自分のエゴを貫いた。余計に悲しませる未来も起こり得ると知っていながら、その細い指を無理やり自分のそれと無理やりに繋いだ。そうして束の間の幸せと安らぎに浸り――結果、一方的に切り捨てた。

「だが」

 マーガスは端正な顔を歪める。

 主である彼が従者である騎士に許しを乞うように言葉を紡いだ。

「本来なら君はすでに――いや、叔父上の手で元より我が王家との一切の繋がりを断った存在だ。それが、私に力がないばかりに」

「殿下」

 自らを責めるマーガスの言葉を静かに遮る。

 許されざる不敬な行為だが、騎士はそれも(いと)わなかった。

 誰が悪いという話なら、悪いのは自分だけだ。自分が我慢できていたら、あの子が傷つくことなど何もなかった。

「及ばずながら殿下に協力すると決めたのは僕の意思です。そして殿下が御心を砕いて下さっていることは――僕の子供じみた浅慮が招いた結果に他なりません」

「クロー……シェイド」

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