白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 何よりクロードがマーガス派であることをいちばん良く知るのは、この国の貴族階級にありながら隣国の王位継承問題に私欲から首を突っ込み、あまつさえ反する王弟派に就く貴族たちだ。

 万が一にでも王弟がマーガスを蹴落として玉座を得た後、さらに私腹を肥やす為に彼らがこの国を食い散らかそうとする可能性がないわけではない。母国に仇なす国賊と言える存在は、少数ではあるが確かに国内にいるのだ。そして彼らを炙り出すことがレミリアから受けた命であり、クロードが正体を偽る理由でもある。

「殿下御自ら囮になって下さる以上、僕の身の安全など些末なことです」

「そうだな。君は一人の少女の身の安全の為だけに王太子たる私さえ囮にするのだからな」

「申し訳ありませんが、何のお話をなさっていらっしゃるのか分かりかねます」

「私は金曜の午後、客人が訪ねて来るから庭園で茶を飲みたいと言って準備をさせれば良いのだろう?」

 はぐらかしているのも意に介さないマーガスの言葉に、シェイドも観念して頷いた。

「実際には飲まずに、上手くこぼすなりして下さい」

「それはもちろん分かっているよ。私とてむざむざ毒を飲んでやる趣味はない。カップを自然に倒す練習でもしておこうか」

「ご自由に」

 シェイドは軽い冗談も取り合わずに無表情で答える。マーガスは肩をすくめ、しかし長引かせる話でもない為に話題を変えた。

「あの手紙の意図は何だと思う」

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