白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「お待たせして申し訳ありません。こちらをどうぞ」

 そっとロゼリエッタの手を包んで引き離しながら、代わりに柔らかな布を目元に押し当てた。

 布はお湯に浸したようで、じんわりと温かい。感覚だけを頼りに自分の手で包み込むと、ロゼリエッタの心まで温められるようだった。

「ありがとう、アイリ」

「いいえ。当然のことをしたにすぎません」

「アイリはいつも、そう言うのね」

「私はお嬢様の為にお仕えする身ですから当然のことをしているだけです」

「ありがとう」

 新たな涙が潤んで来る。目を温めるふりをして布に吸わせて誤魔化した。

「新しい布をご使用になりますか?」

「ううん、もう大丈夫」

 布が冷えて来る頃合いを見計らって尋ねるアイリに首を振って答える。

 最後に強めに布を押し当て、ようやく目元から離した。顔を上げてアイリを見つめると安堵したように微笑む表情と目が合った。


 アイリは温かいレモネードまで用意してくれていたようだ。カップを受け取り、まだ湯気の立ち昇るそれに息を吹きかけて冷ましながら少しずつ口に含む。優しさに満ちた甘酸っぱい感覚が荒れた喉を癒やすのが心地良い。喉が求めるまま与え、気がつけば全てを飲み干してしまった。

「朝食は旦那様方とご一緒に召し上がれそうですか? もしお身体の具合がよろしくないようでしたら、お部屋までお運び致します」

「お父様にご相談したいこともあるし、食堂まで行くわ」

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