白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 朝食の席で、王都を出ようと考えていることを家族に伝えると決めていた。

 幸い、今日は日曜日だ。平日であれば切り出すことが躊躇われる、込み入った話を聞いてもらう時間は多少の余裕がある。


 何しろ急な話だ。ロゼリエッタ自身もどのくらい離れているつもりなのか、ちゃんとしたことは考えていないに等しかった。一週間ほどかもしれないし、あるいは一生のことになるかもしれない。

 まだ何の具体性もない計画だけれど、父の所有する領地でゆっくりしたいと言えば反対はされないだろう。


 王都で暮らすには、つらい思い出が多すぎる。

 思い出を取り上げないでと彼女は泣くけれど、それでも忘れて行かなければいけない。

「では急いでお顔を洗って、お着替えもなさいませんとね」

「うん」

 ロゼリエッタは頷き、ベッドを出た。立ち上がる時に少しふらついてしまった身体を、アイリが咄嗟に支えてくれる。

 大丈夫だからと離れてもらう。泣いただけで体力の半分以上を失い、一晩眠っただけでは回復もしない身体を叱咤し、一人で立った。それから、自分の力だけで踏み出す。

 少しぐらついても歩ける。歩かなければいけない。


 ロゼリエッタは顔を上げた。

 大丈夫。

 転びそうになったら助けてくれる人たちがいる。


 ロゼリエッタは唇を引き結び、奥のバスルームへ向かった。

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