sugar spot
それに気付いた男が、息を飲むようなそういう気配がすぐそばで伝わる。
もしかしたら、ドン引きしているのかもしれない。
だけど、一度出始めたら、
涙は全然止まってくれなくなった。
壊れた涙腺が、心の奥底に隠してきた言葉をどんどん連れてきてしまう。
「……なんで、それ、
あんただけがそう思ってると、思うの…、?」
"俺は、お前に、頼られたい。"
私だって。
私だって、そういう風にあんたに対して、
ずっと思ってきた。
「……貸し2つって、そっちが、言ったくせに。」
「…、」
「助けられてばっかりは、こっちだって嫌だ…っ」
「…梨木。」
私を呼ぶ声が、ちょっと焦って聞こえる。
その薄い唇が紡ぎ出す言葉をじっと、
見守ってしまった。
「……今日、花、助かった。感謝してる。」
「……このくらい別になんてこと無いですけど。」
「…そこは流石に"良いよ"で、良いだろ。」
漸く持っていたスポドリと男の鞄をその胸元に強く押し付けたら、咄嗟でもちゃんと受け止めた男はそれらを直ぐ床に置いて、まだ私との距離を離さない。
ちょっとだけ笑われたような空気を感じていると、今度は両腕を掴んで真正面から向き合う姿勢をとられ、もっと自由が効かなくなった。
「……お前、なんか話あったの。」
「え?」
「今日、言ってただろ。」
確かに午前中、私はこの男に展示会後に話があると、そう伝えた。
「…新しいアルバム、」
「は?」
「フラゲして、初回限定と通常、どっちも買った。」
もう、数ヶ月前の話になってしまった。
丁度あの、カタログ事件の頃だった。
昼休みにいそいそとCDショップへ買いに行って。
___本当は胸の内だけで、
問いかけたことがあった。
「…あんたも、買ったの?
私は2曲目が凄く、好きなんだけど。」
「……、」
全く想像もしていなかった話題だからなのか、
目の前で驚きに目を見張る男が居る。
「…何か、いつも、"ちゃんと"話題が無いと、
私とあんたは話をしたら駄目なの。」
「……は?」
「何気ないことは、もう、話せない?
……勘違い、されるから?」
入社して研修が始まって。
私の日々の頑張りを支えるものを、
同じように好きな男に出会った。
すごく、嬉しかった。
だから。
『俺と一緒に行って、
勘違いされても良いって思ってんの?』
『勘違い…って、』
『同期とか、それこそもし会社の人間にバレた時、
必ず何か言われる。』
___私は確かにあの時、「寂しい」を抱えた。
それがどうしてなのか、ずっと理由から逃げ続けていた自分が、そろそろ限界だと訴えている。
モヤが晴れるみたいに、自分の中で隠していた気持ちが見え始めたら、また涙が出た。
「…もうぜんぶ、お気に入りの曲は言い切った?」
「なに、」
「私は、まだいっぱいあるけど、
メッセージするのも、リスクになる?」
嗚呼、なんか、もう駄目だ。
自分が何を言ってるのか、極度の緊張状態の中で思考力は確実に奪われているのに。
心で抱く感情だけを頼りに突き進む言葉が、
自分から止まりそうにない。