sugar spot
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そうは言いつつ、
恋愛のことばかり考えている訳にもいかない。
当たり前に毎日降り積もる仕事は、
嘆いたって誰かが代わりにやってくれる筈もない。
「…え、本当ですか…!?」
"勿論、担当者との話を経て、ということになりますので御社にお願いする確証はまだ無いです。"
「しょ、承知しました!それでも嬉しいです。
すぐ埼玉のオフィスへご挨拶に伺います、ありがとうございます!」
"詳細は、メールしますので。"
要件だけをしっかり伝えられた淡白な電話だけど、その通話を終えた時、椅子からしっかり立ち上がっている自分は、そこそこ興奮していたのだと自覚した。
電話の相手は、△社の松奈さんだった。
ちひろさんが、展示会で紹介して下さった方だ。
あの後、彼女が担当した△社の案件資料を片っ端から確認した上で、改めて挨拶に伺ったのが先週の話。
そこからまさか、電話がかかってきて
"以前の展示会でも少しお伝えしましたが、
弊社の埼玉支社で
オフィスリニューアルの話があります。
規模はそんなに大きくはありませんが。
担当者に、お会いになってみますか。"
そんな風に、新しい案件の話を
本当にいただけるとは思わなかった。
挨拶に伺った時、松奈さんは全くニコリともしないし、正直怖かったし、「これはダメだ、この方の信頼も得ているちひろさんは本当に何者なんだ」と嘆きしか出なかったのに。
「……また、ちひろさんに助けられたなあ。」
あの人の前任としての功績と信頼が無ければ、
わざわざ私なんかに、松奈さんだって連絡して来ない。
やっぱり、あまりにその存在は大きい。
追いつける気も、しない。
パソコンの画面を見つめていると、薄暗い影が心に落ちてそのまま不穏な闇が自分を侵食しそうになる。
その時、丁度同じタイミングで
スマホが机の上で震えた。
《ば花緒さん。1週間、経ちますけど?》
「……。」
イタリアンに行ったあの日から、
もうそんなに経ったのか。
毎日、1日1日を働くのはとてつもなく大変なのに
1週間で換算したらどうしてこうも直ぐ、過ぎ去るのだろう。
《1週間、あっという間だね。》
《…誰がそんな世間話しようって言ってるの?
ねえ、アーリーは?アーリーとは、いつ話する?》
この同期の女は、ほぼ毎日、
こうしてメッセージで進捗確認をしてくる。
もはやプロジェクトを牽引するリーダー並みの進捗把握スキルを持っているのは認めるので、ちゃんと自分の仕事をしてくれないだろうか。
《展示会の時に沢山名刺も配ったから
当たり前だけど。
こんなに問い合わせ対応とか外回りで
毎日バタバタすると思わなかった。》
《それはとてもお疲れ様だけど〜〜
アーリーと会えてるの!?》
《あんまり。
でも一応、メッセージのやり取り、してるし、》
《え、嘘。そうなの。どんな?》
《好きな曲を送り合うだけだけど…》
《この人達は、部活前の男子高校生か何かですか?
こっちはオトナの
色恋沙汰を希望してるんだけど〜!?》
オトナの色恋沙汰ってなんだ。
分かるようで分からない表現に溜息を漏らして、「そんなの私とあの男に似合わない」と送ったら
《ちゅーまでしといて、今更何を言ってるの?》
とストレートな言葉を受けて、墓穴を掘った。
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そうは言いつつ、
恋愛のことばかり考えている訳にもいかない。
当たり前に毎日降り積もる仕事は、
嘆いたって誰かが代わりにやってくれる筈もない。
「…え、本当ですか…!?」
"勿論、担当者との話を経て、ということになりますので御社にお願いする確証はまだ無いです。"
「しょ、承知しました!それでも嬉しいです。
すぐ埼玉のオフィスへご挨拶に伺います、ありがとうございます!」
"詳細は、メールしますので。"
要件だけをしっかり伝えられた淡白な電話だけど、その通話を終えた時、椅子からしっかり立ち上がっている自分は、そこそこ興奮していたのだと自覚した。
電話の相手は、△社の松奈さんだった。
ちひろさんが、展示会で紹介して下さった方だ。
あの後、彼女が担当した△社の案件資料を片っ端から確認した上で、改めて挨拶に伺ったのが先週の話。
そこからまさか、電話がかかってきて
"以前の展示会でも少しお伝えしましたが、
弊社の埼玉支社で
オフィスリニューアルの話があります。
規模はそんなに大きくはありませんが。
担当者に、お会いになってみますか。"
そんな風に、新しい案件の話を
本当にいただけるとは思わなかった。
挨拶に伺った時、松奈さんは全くニコリともしないし、正直怖かったし、「これはダメだ、この方の信頼も得ているちひろさんは本当に何者なんだ」と嘆きしか出なかったのに。
「……また、ちひろさんに助けられたなあ。」
あの人の前任としての功績と信頼が無ければ、
わざわざ私なんかに、松奈さんだって連絡して来ない。
やっぱり、あまりにその存在は大きい。
追いつける気も、しない。
パソコンの画面を見つめていると、薄暗い影が心に落ちてそのまま不穏な闇が自分を侵食しそうになる。
その時、丁度同じタイミングで
スマホが机の上で震えた。
《ば花緒さん。1週間、経ちますけど?》
「……。」
イタリアンに行ったあの日から、
もうそんなに経ったのか。
毎日、1日1日を働くのはとてつもなく大変なのに
1週間で換算したらどうしてこうも直ぐ、過ぎ去るのだろう。
《1週間、あっという間だね。》
《…誰がそんな世間話しようって言ってるの?
ねえ、アーリーは?アーリーとは、いつ話する?》
この同期の女は、ほぼ毎日、
こうしてメッセージで進捗確認をしてくる。
もはやプロジェクトを牽引するリーダー並みの進捗把握スキルを持っているのは認めるので、ちゃんと自分の仕事をしてくれないだろうか。
《展示会の時に沢山名刺も配ったから
当たり前だけど。
こんなに問い合わせ対応とか外回りで
毎日バタバタすると思わなかった。》
《それはとてもお疲れ様だけど〜〜
アーリーと会えてるの!?》
《あんまり。
でも一応、メッセージのやり取り、してるし、》
《え、嘘。そうなの。どんな?》
《好きな曲を送り合うだけだけど…》
《この人達は、部活前の男子高校生か何かですか?
こっちはオトナの
色恋沙汰を希望してるんだけど〜!?》
オトナの色恋沙汰ってなんだ。
分かるようで分からない表現に溜息を漏らして、「そんなの私とあの男に似合わない」と送ったら
《ちゅーまでしといて、今更何を言ってるの?》
とストレートな言葉を受けて、墓穴を掘った。