sugar spot
「……お前が、枡川さんになれるわけないだろ。」
「分かってるよ。」
そんなこと、分かってる。
言われなくても、自覚している。
ずっと、遠いままだ。
出会った最初から憧れて、近づきたくて、
だけどその方法が分からない。
どうしたら、あんな素敵な人になれるの。
クライアントだって、うちの部署の人たちだって、
きっと、”ちひろさんみたいなできる人”を望んでる。
痛いほどに自分の未熟さを
分かっているから、余計に辛い。
ぎゅっと目を一度強く瞑ったら、また涙が増えて視界は水浸しだった。
もうこれ以上見られたくないと身体を背けようとしたのに。
細くて長い繊細な手指が、それに似つかわしくない不器用さを伴ってそっと涙を拭ってくるから、身体が止まった。
「____花緒。」
「…、」
初めて、名前を呼ばれた。
驚きと困惑で思わず見つめたら、目を細めて眉根を寄せた男の気難しそうな顔が、すぐ近い距離にある。
こんな時でも、右目の涙袋にある小さなほくろが、やっぱり中性的な顔立ちを印象づけた。
「馬鹿。」
さっきから同じ単語ばかり使ってくる。
ムッとした顔つきのままに言い返してやろうと口を開きかけたのに、それを遮る言葉に鉢合った。
「_____お前は、お前だろ。」
とてもぎこちなく、だけどこちらにしっかりと紡がれた言葉をなんとか聞き終えたら。
その拍子に粒の大きな水滴が、身体中の水分を吸い取るかのように瞳から絶えず、再び溢れ始めた。
お構いなしに服が濡れていく。
なんで、そんなこと。
今このタイミングで言うの。