sugar spot
「就職面接の時もそうだったわ。」
「面接、ですか?」
「そう。二次面接だったかな。
”挫折経験とそこから乗り換えた経験がありますか”
って、「聞かれたら嫌だな面倒だなって思うこと間違いなしな質問」を私、敢えてあんたにしたのよ。」
「ドSなんですか…?」
緊張でもう、あまり覚えてないけれど。
確かにそんなことを聞かれた気もしてきた。
こちらは目を細めて批判を表しているのに、相変わらず整った顔を楽しそうに緩めて言葉を繋げられた。
「でもそこでも、あんた言ったのよ。
”私は平々凡々に生きてきたから、大きな挫折も、そこから這い上がったエピソードも正直ありません。
なんなら今、この就活が人生一レベルで
挫折してます。"」
私は、そんなことを言ったのか。
バカ正直も度が過ぎるとバカになってしまう、と恥ずかしさに再び俯いたら、けらけらと笑われた。
「でも、"なんとか自分の出来うる準備や努力を考えて、乗り越えたいです。"
そう言ってたのが、自分を無理して大きく見せるわけでもなく、凄く素直で誠実だと思った。
やっぱりそれは、あの研修中のワークでもそうだったしね。」
"私は地理感が全然分かってないから、いつも迅速に動けるように、クレーム対応以前に、ちゃんと先に準備しておかないとなって思っただけ。"
「それは、あんただけの”営業の姿勢”でしょ?
今まで生きてきて得た、
梨木花緒のバックボーンが、そうさせるんでしょ。
本当は自分に自信が無くて、でもそれをカバーしようとする地道なひたむきさが、良いなと思ったのよ。」
吉澤さんは、いつも言葉が鋭い。
叱られてる時は、それが心に入り込み過ぎてよく凹んだ。
だからこそ、褒めてくれる時は、喉が熱く滲んで何も話せなくなるくらい言葉がこんなにも心を貫くのだとは、知らなかった。
「…さ、最終面接で、私が枡川さんと似た志望動機を伝えたから受かったんだと思ってました。」
「はあ?」
"…数年に1回、同じような子が現れるのかな。"
そう、面接官の男性にも言われたことを思い出す。
神様のおかげで受かったと、本当にそう思った。
「…人事をなめすぎだわ。
こっちは採用活動の間、
一緒に働きたい人を、常に見てるの。
"あんた"を見てたに決まってんでしょう。」
やっぱり馬鹿ね、と揶揄うみたいに付け足されたその言葉はいただけない。
なのにやっぱり、言葉はうまく出ない。