sugar spot
◻︎
「……げ。」
全員の配属通知が終わり、部署ごとに集まって今後の予定や連絡事項を聞く流れになって。
指示された小会議室へ行くと、先に座っていた男と目が合った。
「…」
「…」
座って何やら資料を確認していたそいつは、私を一瞥して舌打ちをした後、再び視線を机へと落とす。
相変わらず、あまりに感じが悪い。
というか、今日も順調に、すごい腹立つ。
「(……え、2人だけ?)」
沈黙の続く空間の中で私は誰に問う訳でもなくそう心で呟き、そして、オフィス家具を扱う営業部隊への配属は私とこの男だけだったのだと知った。
自分の配属で喜びが爆発してしまって、あまり確認していなかった。
入り口でまごつく私を不審に思ったのか、再び顔を上げた男は無表情に怪訝さを乗せて、
「…何突っ立ってんの?」
と、冷静に絶妙に腹の立つトーンで問いかけてくる。
____同期の、有里 穂高。
とにかく身長が高く、小さめの机の下に仕舞っている長い脚が、もはや窮屈そう。
男にしてはやけに透明感のある肌の色で、そこに中性的な顔立ちがプラスされるから、なんとなく近寄りがたく見える気もする。
現に、同期女子の間では「なんか芸術品っぽくて話しかけるの緊張する〜〜」なんて声があったりして。
「(私には腹の立つ能面にしか、見えないけどな。)」
心でそう呟きつつ、目を細めて観察していると、何かを察したように、アーモンド型に丁寧に形作られている瞳がこちらを向いた。
右目の涙袋にある小さなほくろが、男を艶っぽくさえ見せる。
「なんだよ。」
「は?何も無いし。」
顔を歪めてそう話しかけてくる男に、負けないくらい"嫌な感じ"で返してやった。
「唯一の同期が、お前か。」
「こっちの台詞なんですけど?」
頬杖をついて事実を確認し、勝手に嘆く男を殴りたくなる。
こいつは、
私に対する態度が、いつもこう。
"何を機に"、なのか思い当たる節は無い。
"いつから"なのかは、考えるのをやめた。