sugar spot
「…なんだっけ。」
「え?」
「"時間がある時はなるべく会いたい派"?」
「……そう、だけど。」
『時間がある時は、
なるべく会いたいって思う派だから。』
そう言ったのは紛れもなく私だ。
近くで目を合わせていると、綺麗に象られた双眸がつくりだすその眼差しに、脈を打つ速度がまた増していく。
自分が口走ったことを振り返るのはもはや怖いし、胸もずっと苦しい。
全てが、この男に繋がっている。
「花緒。」
「…なに?」
声の調子はいつもと変わらないのに。
どうしてだか、1番安心してしまえる。
「お前は本当に俺がどう思ってるか分からないの?」
「……」
先週のこの男の出張スケジュールは、飛行機の移動を何度か伴うハードなものだったと知ってる。
それでも、仕事が終わったら直ぐに電話してくれた。
今日だって。
奈憂に何を言われたのかよく分からないけど、
態々、居酒屋まで迎えに来てくれた。
「…私、」
「うん。」
「やっぱり馬鹿かもしれない。」
「うん。」
この男がずっと私を大事にしてくれていることを、自分の中で勝手に膨らませた不安のせいで、いつの間にか見失ってしまっていた。
自身を顧みて感想を漏らすと、何のフォローもなくただ綺麗な肯定だけを受ける。
頷かれるとそれはそれで辛いと、複雑な表情をつくったら、触れるだけのキスをよく分からないタイミングで落とされて。
びっくりした表情のままに視線を合わせた先の男は、薄い唇に微かに弧を描く。
「…でも俺もだから。」
「え?」
「お前がどう思ってくれてるのか
全然分かってなかった。」
「…確かに。アホだ。」
「お前、本当に分かりにくい。」
「あんたには言われたく無いし。」
結局いつも通りの言い合いをして、だけど見つめ合う距離の近さは保たれたままで。
「…花緒。」
「ん?」
「お前ずっと今週忙しそうで、Mステも録画忘れるかもなって思ってた。」
「は?何で言ってくれないの。」
鬼畜過ぎないだろうか。
信じられない気持ちで詰め寄るとまた、掠めるようなキスをくらう。
ちょっと怯みつつ、でもそんなのでは誤魔化されないと己を鼓舞して見つめ続けていたら
「お前のこと此処に誘う口実欲しかったから。」
なんてサラリと伝えて、今日1番目尻を下げてみせたこの男は、もはや私の反応を大いに楽しんでいるように思う。
《別に良いけど。じゃあ今日来れば。》
「…素っ気ない返事だったくせに。」
「こっちから誘う前にお前から言ってきてくれて有難いって思ってたらその後来ないとか言うし、充分翻弄されたからお互い様だろ。」
それこそ何も意図して無かったけれど、この男に私ばかりが一喜一憂しているわけでは無いと知るとちょっと、嬉しい。
「Mステ、絶対今すぐ観たい?」
「え。…、っ!」
まだ私、質問を受けてる段階の筈なのに。
ふわりと宙に浮かされた感覚に気がついた時には、もう既に男に抱き上げられていた。