sugar spot
◻︎
《本当に1番好きな食べ物、なに?》
《肉》
《じゃあ2番目は?》
《魚》
《あのさ、せめてメニュー名を言ってくれない?》
《じゃあオムライス》
「え、肉と魚の話どこいった?」
買い物カゴを持つのとは逆の手で握りしめたスマホに思わず問いかけてしまった。
勿論答えが返ってくる筈もなく、噛み合ってそうで噛み合っていない能面とのメッセージに首を傾げる。
珍しく残業もなく退勤出来た後、急いで最寄り駅のスーパーに立ち寄った私は、今日の夜ご飯はいつも1人で食べている時のように、適当に済ませることが出来ない。
「……他のこと?」
「だってチケットはまた再チャレンジに
なっちゃったわけだし。
なんか他で、取り急ぎのお祝いしたら?」
ランチを終えて別れる前、そんな風に奈憂に提案されて、だけど急にプレゼントを渡すのも重い気がするし、と色々考えた結果。
《今日の夜、うちに来られる?》
明日も仕事はあるしどうかなと迷いながら、意を決してメッセージを送ると、思いの外直ぐに「分かった」とあの男から返事が来た。
今まで、夜一緒に過ごすなら向こうの家が多かったし、2人でご飯を用意したことはあっても、簡単なものが多くて。
こうして私がちゃんと作って、部屋で帰りを待つ、みたいな、そういうことはしたことが無い。
「…というか、オムライス好きだったの。」
私は元々オムライス、凄く好きだけど。
なんかあの男にはあまり似合わなくて、公言したことも作ったことも無かった。
でも得意料理だから、ちょっと安心できる。
《着くの何時ごろになる?》
買い物袋を持ってスーパーを出つつ、またメッセージを打ち込んで送信しようとすると
「花緒。」
「……え。」
直ぐそばから私の名前を呼ぶ冷静な声だけでその人物が自ずと分かって、同時に胸も跳ねた。