sugar spot
「……そっか、今日から配属か。」
「あれ、南雲さん。どうしたんですか。」
後方から聞こえてきた落ち着いた声に振り返ると、そこには短髪の黒髪で、垂れた瞳が印象的な優しげな男の人がパソコンを抱えて立っていた。
「古淵にデザインの問い合わせの件で呼び出されて、こっちの島まで来ただけ。
今年はデザイン部には新人入らなかったからなあ。
俺の後輩は、気怠い4年目の男とかしか居ない。」
「古淵…、うちの同期がいつもすいません。
瀬尾は新人の頃からフレッシュさ無かったですしね。
その点、うちに配属になった梨木さんは、キラッキラです。ね?」
そう言ってこちらに話を振ってくれる枡川さんに気づいて、再びがばっとお辞儀をして名前を名乗った。
「おー、まじですごい元気。羨ましいわ。
デザイン部の南雲です。よろしく、梨木さん。」
そう言って微笑む彼は、とても癒し系。
少し緊張が解れて私も笑っていると、
「あーー!南雲さん!早く!!助けて!」
と、少し離れたところから、半泣きの男の人が南雲さんに手を振っていた。
「はいはい。」
はあ、と大きく溜息を漏らした南雲さんがその声の方へと向かうのを何となく見送る。
すると、古淵さんと呼ばれている男性の隣に立つ、男。
ばち、と距離はある中でも完全に目があったのが分かる。
すらりと身長の高い男は、古淵さんと南雲さんが2人で何か、やいやいと話をしている側で冷めた視線を私に向けている。
…何。
その気持ちを乗せて目を怪訝に細めれば、能面の薄い唇が、小さく動いた。
"こ え で か い"
"ばーか"
何故だか従順に試みた読唇術は、成功した。
「(声でかい。馬鹿。)」
自分の中で反芻すれば、あっさり苛立ちが顔を出す。
先程の挨拶のくだりを指摘しているのだろうか。
わざわざ、ご丁寧に伝えてくれる必要はある?
沸々と湧く感情を表情に乗せて睨みつけると、鼻で笑った男は視線を逸らして先輩達の会話へと入っていった。
「なんだ、あいつ!!!」
「え!?」
思わず漏らした声に、隣の枡川さんがびくついたので必死に謝った。本当に、許さない。