sugar spot
「あの、有里。」
「なに。」
「私、大丈夫だからお昼に…
「それ、問1から既に間違えてるけど、どこを見て大丈夫って言ってんの?」
「……」
私のパソコンの画面を指差して、やはり無表情のまま告げられて言葉が簡単に遮られた。
この男、絶妙に腹の立つ言い方をしてくるな。
「ちょっとまだ、関数組むの慣れてないだけです。
いつも電卓使ってExcelやってたから。」
「…Excelで電卓使うって何?
Excelの良さ全部殺してるだろ。」
「……」
なんだこの男。
クールな感じかと思ったら、
ただただ、いけすかない奴だったのか。
キーボードに手を置いたまま睨みつけてやろうとしたら、コンビニで先に買ってきていたらしい昼食を袋から取り出しつつ、ほんの少し、その能面の口角が緩んでいる気がして、思いがけず見つめてしまった。
「……何。」
でも私の視線に気づいた瞬間、男はまた能面に戻る。
「………あんたもうちょっと愛想良くできないの。」
「人のことより自分のパソコンスキル心配しろよ。」
「……」
今日会話を交わしたばかりの人間を殴りたい衝動に駆られたのは初めての経験だった。
なんだこの男!!!
「で、問2はこれ、何をどうすんの!?」
「お前、教えていただく立場であることを
常に意識しろよ。」
もう開き直って、サンドウィッチ片手に一応教えてくる男に尋ねつつ、昼休みを使ってなんとかワークを仕上げた。
「梨木やるじゃない。
有里にもよくお礼言いなさいよ。」
と、吉澤さんに言われ、げんなりした顔で「はい」と苦々しく返事をすると、スパルタな彼女に「そんな返事の仕方、私は教えてない」と頬をまあまあな強さでつねられ、社会の厳しさを感じた。