sugar spot


◻︎


その日の午後からは、

《自分が営業職だとして、
顧客からのクレーム対応を考える》

というブレストで、やはり隣の能面とペアを組むことになってしまった。


渋々意見を出し合う中で、


「…は?MAPの準備?」

「なんか文句あんの。」

私が出した意見を怪訝そうに聞き返された。


「なんで先方が怒ってる状況で、
まず地図の話出てくんの。」

「東京を知らない田舎者だからですけど?

外回り中だとしても、会社にいたとしても、
先方のところにすぐ行くのか、今回みたいに家具の納品トラブルだとしたら現場に直行するのか、分かんないけど。

私は地理感が全然分かってないから、いつも迅速に動けるように、クレーム対応以前に、ちゃんと先に準備しておかないとなって思っただけ。」


「………」

「何。」

「田舎者だからExcelも使って来なかったんだなと思って。」

「……」


全国の田舎者に謝れ。

自分が営業になったと考えて、それなりに真面目な意見を出したつもりだったのに。

心底後悔していると、隣の男はパソコンに表示された提出用のシートに、私のさっきの考えを手早いタイピングで打ち込みはじめた。


……なんなの?
良い意見だって思ったなら素直に言いなよ。




「あんたは、どう思ってんの。
クレーム対応する時、どうするの?」

「…俺は、謝らない。」

「は?」


「謝罪したら、もうそれはうちに全部非があるって認めることになる。

それは、営業の俺1人だけの話じゃない、
会社の責任になるだろ。

ちゃんと調査して、原因がどこか、責任の所在がどこか分かるまでは、謝らない。」


「……、」

「なんだよ。」

「責任の所在、素早く自分の足で調べるには
地図も必須じゃない?」

「お前、俺の意見が良いからって自分の出した意見にうまく繋げてくんな。」

「うっさいな、早く書きなよ。」


まるで「なんだこの女」と言いたげな溜息と共に、無表情でシートを埋める男を、バレないように観察した。


"謝罪したら、もうそれはうちに全部非があるって認めることになる。
それは、営業の俺1人だけの話じゃない、
会社の責任になるだろ。"


何それ。

急に真面目にそんなこと言うから、びっくりした。

研修生の身でそんなとこまで考えているのかと、
私では考え付かなかった意見で、悔しい。


ちょっとだけ乱れた拍動を整えるように、
ペットボトルの水を喉に流し込んだ。

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