sugar spot


_____________

____



そこから、何故だか毎日。

"一往復だけ"メッセージを交わしている。



《今日はこの曲の気分。△△》

《ふーん。●●》


「……とうとう隠しトラック出してきた。」


電車を降りて集合場所へ向かう道の途中、愛想の無い男の、愛想の無いメッセージに素で突っ込んでしまった。

CDを手にした人だけが聴けるボーナストラック。
バンドメンバーの遊び心がまた愛しくて私も大好きだけど、それを此処で出してくるとは侮れない。



____

お互い、同じ写真展に行くと知ったあの日。東京に来たからには絶対メンバーにゆかりのある土地は行きたいと思っていると、口を滑らせてしまった。

「は?田舎者がどうやって1人で
こんなマイナーな場所まわんだよ。」

「…あんた、なんでそんな毎秒ごとに喧嘩売れるの?」

「下町で凄い分かりづらい所だらけだし、お前には無理そう。」

「え!?あんた、もう聖地巡礼済み!?」

「当たり前だろ。」

……悔しい。
私だって東京出身だったらとっくにやってる。

睨みつけると、鋭い目元に同じように返された。


「…困ってる同期を案内してあげようとか、
そういう優しさは無いわけ?」

溜息混じりに吐き出してしまったそれは、全然、胸の内に留めておくつもりだったのに。


途端に、向けられていた厳しい視線が驚きのものに変わって。

あ、やばい。
これは絶対余計なことを言ったと、気付いた時にはもう遅かった。

慌てて否定の文句を繋げようとしたら、

「……して欲しいわけ?」

「…え。」

「…写真展の場所から、アクセスそんなに悪く無い。」

神経を研ぎ澄ませないと聞こえないくらいの声で、視線を外して告げられた言葉。
"約束した"というには、あまりに頼りない会話だった。

_______





あれは、一緒に写真展も、その後の聖地巡礼も
付き合ってくれるってことでいいの。


そうどうしても聞けなくて、何故だか毎日、このバンドのお気に入りの曲を送り付け合うだけのメッセージを交わしている。



「…本当、なんなのこいつ。」

何を考えてるのか、よく分からない。



今日から、遠方の施設で宿泊研修が始まる。

来週には研修も終わって、その後ご褒美のように、写真展が待っている。

あまり時間も無いのに、私は未だに男に確認作業が出来ていない。


早朝に施設へ向かうバスの集合場所へ向かいながら、全く掴めない能面男のことを考えて苛ついて。

そのくせに、届いたメッセージの音楽を電車に乗っている時のBGMにしてしまった私は、どうかしてる。




< 75 / 231 >

この作品をシェア

pagetop