sugar spot
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《来週の土曜日の写真展、どうすんの?》
現代とは便利なもので、伝えたいと思う言葉は、そこまで労力を使わずに相手に届ける術がある。
あとは「送信」を押す勇気だけ。
それを持ち合わせれば、伝えられる。
スマホを握りしめて唸りつつ、研修の休憩時間に自販機コーナーの近くのソファに腰掛けて、画面をただただ睨みつけている。
「お、押せん……、」
だけど現代でも流石にその「勇気」は
自分で生み出すしか無い。
はああ、と息を吐き出して一旦トーク画面を閉じようとしたら、そのタイミングでスマホがピコンと軽快に鳴った。
《これ。▲▲》
「……これ、じゃないわ。」
毎日あの男から送られてくる"今日の一曲"は、ブレが無い。そして今日のチョイスも、研修で疲れた身体に染み入るバラードで、それがまた腹が立つ。
やっぱり、曲を送りつけるタイミングで
一緒に自然な感じで、聞いてみるしかない。
《私は◇◇。
で、土曜日はどうするの。》
メッセージを打ち直して、「送信」を勢いをつけて押そうとした瞬間だった。
「何してんの。」
「っ、」
突然すぐ傍から声が聞こえて、驚きに身体が大袈裟に跳ねた。
ガバリと顔を上げると、涼しい顔の能面が私の挙動不審さを冷静に見下ろしている。
「な、何もない…ですけど、」
慌ててスマホを隠して誤魔化すと、さほど気に留めない様子で自販機の前に立った。
長い手足は、研修中のカジュアルな身のこなしでもよく分かる。
「スーツも格好いいけど、私服も素敵だわ。
良かったあ、私服センスダサくなくて。」と奈憂が何故だか安心したように語っていたことを思い出してしまった。
「……なんだよ。」
「別に。」
一応こっそり観察していたはずなのに、至近距離過ぎて私からの視線に気付いていたらしい。
缶コーヒーを購入し終えた男に怪訝そうに言われて、ムッとしながら全く可愛げのない答えを返す。