sugar spot

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《なんか、起こったりした!?》

「……は?」

展示会2日目の朝、会場に着いてなんとなくスマホを見ると奈憂からメッセージが来ていた。

なんの脈略も無い一文は、全く意味が分からなくて一度逡巡してみたけど、やっぱり理解出来ない。



《なんかって?》

《だから〜〜こちら、展示会では何か波乱が起こるかもと伺ってるのですが!?》

《何言ってんの?
こちらは1日目の疲労が取れず、ヘトヘトです。》

《ば花緒、察しが悪くて辛い。
仕事ばっかりしててどーすんの。ばか。》



「いや、もうただの悪口じゃん。」

失礼な女からのメッセージにそう突っ込む。

そして仕事しに来てるんだ私は。




《明日展示会終わったら
入り口近くの自販機スペースに集合な。
絶対、帰んなよ。》


でもその瞬間、
昨日受け取ったメッセージを思い出してしまった。



___仕事ばっかり、は、ちょっと嘘かもしれない。

そうじゃない気持ちを抱えた時が
あったような気もする。


でもそれを態々この女に言ったらまた煩そうなので、なんの意味もなさない変なスタンプだけ押して強制的に会話を終えた。



「梨木ちゃん、おはよう。」

気を取り直してブースのセッティングをしていると、ちひろさんが声をかけてくれた。

「おはようございます!」

ふわり笑って「なんか一緒に仕事するの久々だね」と言ってくれる彼女は、企画部でも相当忙しい筈なのに、今日は午前中ずっと手伝ってくれるらしい。


「最後、ちゃんとご挨拶出来なかった取引先さんも居るから。もし今日会えたら、梨木ちゃんのこと紹介するね。」

「…すいません、最後までご心配をおかけして…」

「あれ、いつの間にそんなよそよそしくなった!?」


きっと、ちひろさんも疲れが溜まっている。
その証拠に、明るく私を揶揄う彼女の目の下にはクマが確認できる。

展示会前に亜子さんに会った時、「外ランチにも行けてない」と教えてくれて、自由に時間を取られないほど忙しいのだと知った。


だから今日は、きっと無理をして来てくれたんだと思う。私が、心配をかけているのは間違いない。


「ちひろさん。」

「ん?」

「御恩に、報いますので。」

「…え、武士…?
梨木ちゃん相変わらず面白いな。」
 


「____おはようございます。」

ちひろさんの突っ込みが終わった瞬間、平静さを失わない男の挨拶が聞こえて、心臓が跳ねたのを必死に真顔を保って隠した。


「有里君、おはよう。
古淵に迷惑かけられてない?」

隣を見ると、パイプ椅子を両脇に抱えた男がそれらをブースの側に積んでいる途中だった。


「…そうですね。
でも毎日、勉強させていただいてます。」

「こ、古淵から?」

「はい。」


「有里君は謙虚だなあ」と笑うちひろさんに、ふと珍しく口角を上げた男を見たら何故かまた心臓が煩い。

私は一体、朝からどうしてしまったのか。

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