拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
「大丈夫ですよ。これだけやっても多分須藤さんの半分くらいの業務量です」

「そんなことないだろう。佐多はちょっと詰め込みすぎだ。もう少しペース落とせ」

「・・・・・」

「ミスの元だ。少し吉田に任せて。吉田にも話しておくから」

「はい・・・」

頑張っているつもりなのだが・・・もちろんミスしてからでは遅い。私には任せられない、ということだろう。自分の能力不足がもどかしく、もっと頑張らないと、と気持ちが焦る。

「おい、誤解するな。佐多はちゃんとやれてるから心配するな」

「・・・はい・・・」

二人で駅に向かって歩いていると、あの、という声が聞こえた。

須藤さんをチラリと見たが、足を止めることなく歩いていたので、聞き間違いかと思い、私もそのまま歩き進めると、スッと小さな影が目の間に入り、あの、ともう一度同じ声が聞こえた。

急なことだったのもあり、須藤さんさんがスッと私の前に立つようにして、何か?と声をかけるが、暗くてよくわからない。じっと、私のほうを見ていたので、私も目を凝らすと、どうやら浦橋くんの元カノのようだ。

私が須藤さんを押さえて前に進むと、彼女も近づいてきて、ぺこん、と頭を下げた。
私も吊られてぺこん、と頭を下げると、須藤さんのほうに振り向き、知り合いです。と声をかけて、ここで失礼します、というと、須藤さんも、おう、と手を挙げて先に帰って行った。

こんな時間に、こんなところまで、何の用だろう。
正直仕事が手いっぱいで、焦っている今、また彼女と話をして気持ちを揺さぶられるのは気が滅入る。
浦橋くんのことはずっと避けていて結局話せていないままなのに。

「あの、今日は私に何か・・・?」

「お話をしたくて・・・。こんな時間に会社まで押しかけてすみません」

「ずっと待っていらしたんですか?」

定時をもう2時間以上過ぎている。いつ出てくるかわからないし、見つけられるかどうかもわからないのに、平日の夜にこんなことするなんて・・・

「明日には帰らなくてはならなくて。なのでどうしてもお話ししたくて」

「・・・わかりました。じゃあ、少しだけ」

私が先に歩き出し、斜め後ろを彼女がついてくる形で駅前のカフェまで行く。
窓側の席に着くと、私から切り出した。

「お名前を伺ってもいいですか?」

「松本恵理です」

「・・・佐多満里子です」

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