拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
牧野くんはお酒を飲んでしまったし、車の運転ができないため、先ほどの電話でお母さんを呼んだのだろう。

「満里子」

助手席から牧野くんの声が聞こえたが、返事をする気になれない。
目をつむって返事をしないでいると、眠っているのかと思ったのか、それ以上は話しかけてこない。
しかし、目をつむって車に揺られていると、気持ちが悪くなってくる。少しだけ、吐き気がしてくる。

しばらくは我慢していたが、いよいよ気分が悪くなり、思い切って切り出す。

「牧野くん・・」

「どうした?」

「ごめんなさい。気持ちが悪いのでとめてもらっていいですか?」

牧野くんが窓を開けてくれて、すぐにお母さんがウインカーを出して、車を停めてくれた。

ハンカチで口を押さえながらお母さんにお礼を言う。

「お母さんに送っていただくなんて思ってなくて。遅い時間にありがとうございました」

牧野くんとの喧嘩・・・というか、ゴタゴタに巻き込んでしまい申し訳なく、何とかお礼を言うが、お母さんは優しく言う。

「待ってるから少し休んで」

「あの・・・ここで大丈夫ですので・・・」

そこまで言うと、牧野くんに手を引っ張られて車から降ろされる。慌てて、ありがとうございました、と告げるがドアの閉まる音にかき消されてしまう。

「大丈夫か?座る?」

歩道の隅に座らせてくれようとするが、車を降りたら吐き気は収まったので大丈夫そうだ。

「平気。車だと気持ち悪くなりそうだから、ここから電車で帰るね。ありがとうございました」

私がお礼を言うと、不服そうに顔を歪めて私の腕をとった。

「駅まで送る」

「一人で大丈夫」

お母さんが待っているし、これ以上迷惑かけるわけにいかない。それに何よりも一人になりたい。牧野くんと一緒にいるのはもうツライ。

私の言うことには聞く耳持たず、私の腕も引いてズンズン進んでいく。
吐き気は収まったが、気分が悪いことには変わりがなく、早足で進まれるのはさすがにキツイ。駅までこのペースで歩くのはついていけない。
いい加減放っておいてほしく、どうしようかと考えていると、不意に、田中さんのお店が近いことに気づく。
通り2本先がそうだ。

「知り合いのお店が近いから、そこで休んでから帰る」

土曜日だから田中さんはいないかもしれないが、お店は営業しているはずだ。
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