拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
ぼんやりとグラスに入ったままの炭酸水を眺めていると、あっという間に帰り支度をした田中さんが出てきた。

「行こう」

と声をかけられ、席を立ちながら、マスターにご馳走様でした、と声をかけると、手を挙げて答えてくれた。

表に出てタクシーを待っていると、

「俺の家でいい?」

「・・・・」

「いいよね?」

「明日仕事です。田中さんもですよね?」

「満里子ちゃんの家でもいいよ」

「明日の朝、一旦帰りたいです」

私がそう言うと、ニコっと笑い、OKと言い、ちょうど来たタクシーに先に私を押し込み、後から田中さんが乗り込んできた。


田中さんと体の関係になってから、2か月がたつ。

一度目度目は、牧野くんに送られてこのお店に来た日。
二度目は何週間か前、仕事が終わらず、終電まで作業をしていたのだが結局終わらず、イライラしながら会社から出た時、偶然田中さんに会った。何か食べようと誘われ、結局終電を逃し、一緒に泊まったのだ。

特に付き合うという話にはなっていない。
セフレということになるのだろうか。

いくらセフレだとしても、複数の相手がいるのだとしたら、話は別だ。
二度目の時に、他に会っている特定の女性はいないということは確認した。

いずれにしても、精神的に弱っているとき、側にいてくれる田中さんにはとても感謝している。恋人以外の人とこういうことをする自分に驚きだが、田中さんのことはちゃんと好きだ。
ただそれが牧野くんや浦橋くんに抱いていた感情とはまた別の、大きい意味での好きであり、田中さんも恐らくそうだとう。私のことは恐らく嫌いではないが、恋人にするという感じではないのだと思う。

要は割り切った関係だ。

今の私にはありがたい、と思うようにしている。
どうやら私は恋愛は不向きのようだし、田中さんから愛されなくても寂しさを埋めてくれてくれるだけで感謝だ。
これ以上好きにならないように、本当は距離を置きたいのだが、田中さんは私が弱っているときに、優しく触れてくる。


目が覚めると、私の顔を覗き込む田中さんと目があった。

抱き合ったあと・・・そのまま眠ってしまったようだ。

「ずっと見てたんですか?」

私のおでこにそっと口づけ、髪の毛をいじりながら目を細めて微笑む顔は、最高に色っぽい。ここまでの色気を放つ人が現実にいるんだな、とぼんやりと思った。

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