拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
「う~ん、2.3分かな。」

「起こしてくれればよかったのに」

「可愛い寝顔、見てたかったからさ」

そう言って、私の肩の下に手を入れて、ギュっと抱きしめてくれる。
私も背中に手を回し、抱きしめ返す。
いつの間にか丈の長いTシャツが着せられていた。

「これ、ありがとうございます」

「うん。シャワー浴びる?」

「う・・・ん、朝お借りします」

「今日、何かあった?」

やっぱり・・・。気づかれてたんだ。
思えば、最初からバレていたのかもしれない。
私が田中さんのお店に行くときは、嫌なことがあったときや、イライラしているときが殆どだった。
普段飲めないお酒を飲みたい、と思うときばかり・・・・。田中さんのお店は安心して飲める唯一の場所だった。

浦橋くんと別れた経緯や、牧野くんとのことは二度目に泊まったときに、大体のことは話してしまった。
その時田中さんは

『寂しかったらいつでもおいで』

そう言って抱きしめてくれた。

私なんか、こんなダメな私に優しくしてくれることが嬉しくて甘えてしまう。
これ以上好きにならないように、少し距離を置くべきなのに、田中さんは甘やかしてくれる。

仕事終わりに牧野くんから着信があり、心がザワつき田中さんに会いに行ったことを素直に話す。
話いる間、ずっと頭を撫でていてくれる。
田中さんの暖かい体温も合わさって、心地よくて眠くなってくる。もっと話をしたかったが、もう眠くて限界だ。

「また今度、聞いてください。」

「ん。おやすみ」

「おやすみなさい」

そう言うと、後ろからギュっと抱きしめてくれる。
心地よくてすぐ眠りについた。

翌朝、早めに起きだして支度をしてると、田中さんも起きだしてきた。
送る、と言ってくれるがさすがにそこまでしてもらうのは申し訳なくて、お断りしつつ、私が出た後鍵だけ閉めてもらう。

はあ、とため息をつごすと、牧野くんへのモヤモヤや、仕事で落ち込んだことなど、すべて忘れることができる。優しくしてくれて甘やかしてくれて、その瞬間は幸せな気分に浸ることができるが・・・・
昨日の田中さんはまた一段と優しかった。私に触れる手も、表情も、何もかもが心地よい。つい勘違いしそうになる。

恋人にはなれない相手との逢瀬の後はやはり虚しさと寂しさが訪れる。
もう会うのはやめよう、と前回も思った。
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