拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
じゃあ、定時で上がりましょうね、と言い、仕事の戻るところに、須藤さんと会った。

「お疲れ様です」

「お疲れ。お前、今日は?」

「すみません、今日は予定があって。明日なら大丈夫です」

「OK。じゃあ明日な」

お疲れ、と手を挙げて去っていく須藤さんの背中を見ながら木村君が言った。
来週の懇親会のお店を下見に行こう、と約束をしていた。

「須藤さんと仲良いんですか?」

「仲が良い、ってほどではないけど・・・。たまに話すよ」

この半年くらい、私が情報システム部を離れてから、仕事絡みが少なくなり、須藤さんとも話しやすくなった。
来週経営企画部と営業推進部の合同懇親会があるのだが、須藤さんと私が幹事になっている。

やはり1対1で目の前にすると、威圧感というかオーラというか・・・緊張することには変わりないが、以前のように怖いと思うようなことはなくなっていた。親身に相談になってくれるし、愚痴も聞いてくれる。

午後の仕事を片付け、定時まであと30分というときに、須藤さんが席まで来た。

「来週の店、ここでいい?」

そう言いながらスマホの画面を見せらたお店を見ると、割とこじんまりとした、田中さんのお店に似た感じの雰囲気だった。

田中さんとは、あれっきりだ。二人で会わなくなってもう半年以上たつ。
お店にも一人で行くことはほとんどなく、和美と一緒の時にたまに行くだけだ。
田中さんがいないことも多いが、いるときは、以前と変わらず優しい笑顔を向けてくれる。

和美から聞くところによると、商社勤めで夜だけお店の手伝いというのももうやめて、そろそろ本格的にお父さんの会社に入るらしい。
そうすれば、お店に行っても会えなくなる。
今更田中さんとどうにかなるとは思ってもいないが、あのお店では仕事のこと、浦橋くんや牧野くんのこと、悩んだ時に通っていたのは田中さんがいたからだった。
今だって和美と一緒に行くのは田中さんがいるからだ。
和美だって飯島君と結婚してもう数か月だ。
いつ子供ができたっておかしくない。特に和美はほしがっているし。そうなれば和美と一緒にいくことももうなくなるだろう。

つい、物思いにふけっていると、隣からおい、と呼ばれて突っつかれた。

「聞いてた?今日は飲み会?」

須藤さん・・・まだいたのか。喋ってる途中だったか・・・。

「はい。木村君と、そのお友達と」

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