拗らせ片想い~理系女子の恋愛模様
会社から少し離れた場所に、柴田から教えてもらったBarにたまに一人でも行くようになった。
静かで雰囲気の良いお店だ。お酒の種類が多く、マスターや他のバーテンダーも気さくに様々なカクテルを出してくれる。値段も高くない。
満里子と懇親会のお店の下見に行った後、前に柴田に連れて言ってもらった雰囲気の良いBarに満里子を連れて行くと、偶然にも満里子も知っているお店だった。
しかも、かなり前からの常連だという。
弱いのに、こういうところに通う満里子は危なっかしいが、ここのマスターも店員も客の酒の量は把握している質の高い店だ。満里子の適量をキッチリとだしているようだ。
それにしても・・・随分気を許しているように思える。元々は和美の知り合いだと言っていた、田中という男・・年齢不詳だが、俺と同じか少し上か・・・。ものすごい色気だ。夜の男、そのままだ。
その後、一人で飲みに行った時、田中に話しかけられる。
「須藤さん、でしたっけ?」
ん?俺、名乗ったか?柴田か、満里子たちとの会話で聞き取ったか・・・。はい、と頷くと
「やっぱり。満里ちゃんの尊敬して止まない先輩の須藤さん」
尊敬・・・か。あの子はこの人には色々話しているということか・・・
「あの子、一人でも結構来るんですか?」
「そうですね。一時期は来てましたね」
最近はあまり来ないかな、と言いながらチラリとこちらを見た。その目がかなり色っぽい。男の俺でも一瞬ドキっとするくらいだから、さぞかしモテるだろう。
ふっ、『あの子』、ね。と、クスっと笑いながら独り言のように呟くのが聞こえた。
この人が『満里ちゃん』と呼んでいるのを聞き、何となく苗字で呼びたくなかっただけだ。
胸がザザーっと嫌な音を立てた。モヤモヤする。この前一緒にいた木村の同期の中澤という男よりも、よっぽどこっちのほうがヤバい。
この人が本気を出せば、普通の女ならひとたまりもないだろう。
しかも、満里子の話を始めた途端、急に優しい声色だ。
もしかして、もしかしたら、満里子に気があるのか・・・
「須藤さん、結構時間かけますよね。まあ、満里ちゃんにはその方がいいのかもしれませんが・・いい加減長くないですか?」
見抜かれている・・・わけか。
俺だって自覚している。
だが、ここまで時間をかけておいて、急に焦らなくても、じっくり俺の気持ちをわからせるつもりだった。
しかし、この人の言い方は、モタモタしてたらかっさらうぞ、というけん制に聞こえる。
「もう、逃がすつもりはないですね」