40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
【医師と出会う 婚活パーティー 14時半〜】

そう、立て看板には書かれていた。

(ま、まさか……)

すでに数人、エントランスに入っていく人とはすれ違っていた。
男性はかっちりとしたジャケット姿の人もいれば、ビーチで過ごすようなラフな服装の人もいた。
一方女性はと言えば……美容院で整えてきたと明らかに分かるような髪型とメイク、それに雑誌で見たことがある、男性受けしやすいワンピース姿の人ばかり。

(どうしよう……帰りたい……)

体感気温は35度。
すでに服はぐっしょりと濡れている。
黒い服だったおかげで汗は目立っていない。

スマホを急いで確認しても、佐野さんからの連絡は一切入っていない。
すでに時間は、14時15分。

今すぐ部屋に逃げ帰りたい。
早くシャワーを浴びてさっぱりしたい。
でも、もしこの後佐野さんが来て私がいないと分かったら……?

(……何をされるか分からない)

目眩がした。
暑さにやられたのだろう。

倒れる。
地面にぶつかる。
そう思った時だった。

ふんわりと、爽やかなシトラスの香りがした。
とんっと、背中が誰かにぶつかり……。

「大丈夫ですか」

低く、セクシーな声が頭上から降ってきた。
恐る恐る振り返ると、まず目に入ったのは、空色のネクタイと、桜の花がちょこんとついたネクタイピンだった。
次に目が入ったのは、清潔感漂う、上品な灰色スーツ。
それに、スーツ越しに分かる、たくましい胸板もだ。

さらにその人の外見は、乙女ゲームのキャラが三次元に降臨したのでは……と言わんばかりの容姿をしていた。
涼しげな目に長いまつげ。
高い鼻に整った唇。
絹のようなツヤツヤの黒髪。
そして逆光でも分かる、ニキビ1つない、綺麗な肌だった。
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