40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「優花…………!!」

樹さんが、息を切らせて走ってきてくれた。
大きいスーツケースを持って。

「心配した。スマホに連絡しても、ちっとも出ないから」
「……ごめんなさい」

私はここで、ようやくスマホの存在を思い出す。
たくさんの着信が残されている。
時刻はもう、19時になっている。

「とにかく、無事で良かった」

樹さんは、私に手を差し伸べてくれた。
私は、その手を取ろうとした。

でも……ごめんなさい。
もっと早く来て欲しいと思った。
どうして早く来てくれなかったのと、思ってしまった。
そうすれば、私はあんなことを知らずに済んだのに。

「樹さん、ごめんなさい」

私は、差し伸べてくれた手を取ることができない。

「私……ダメかもしれない……」
「ダメって……どうしたんだ、一体……」

樹さんは、私が急に泣き出したので狼狽えている。
ごめんなさい。
ちゃんと自分の心をコントロールできずに、ごめんなさい。

「樹さん……」

聞くな、と私の理性が叫ぶ。
でも、聞かなくては、と私の本能が叫ぶ。

「樹さんって……子供……いるんですか?」

それを言った瞬間の樹さんの顔を見て、私は確信してしまった。

樹さんには子供がいる。

それこそが、樹さんが前に私に言っていた彼の秘密なのだと。

(こんな形で……知りたくなかった……)

私の心は、一気に地獄へと突き落とされていた。
佐野さんによって。
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