40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
そしてやってきた、1分PRタイム。
出来るなら、これだけは避けたかった。
どうして、自分を出すことが苦手な人間にとって苦痛でしかないコーナーを、婚活ではやろうとするのか。
解せぬ。

(どうしたらいいかな……)

そこには、まるで山手線の線路のように、円形に椅子が配置されている。
女性は内側、男性外側に座るようになっており、女性は固定席。
男性は合図が来たら時計回りに移動する、という仕組み。
私の真横には、佐野さんがいる。
残念ながら、真横の人間は、何があっても変えられない。
私は1度だけ、諦めのため息をついた。
そうして始まった1分PRだったのだが、予想よりはずっと楽だった。
というのも。

「君さ、あの美人の知り合い?」
「佐野さんっていうんだっけ?あの人とお近づきになりたいんだけど……」
「佐野さんの好みのタイプ、出来る限り情報が欲しい」

例外なく全員が、私のことではなく、佐野さんのことを聞いてくるから。
私のPRなんてどうでも良い、と言うのが全身で伝わってくる。
元々……私のことを話しても、微妙な空気になるだろうことは、ちゃんと分かっていた。
聞かれたことだけに答えることで、この苦痛の時間を乗り越えることができるなら……むしろ好都合だ。

佐野さんからのミッションは、氷室樹さんに佐野さんをPRすること。
その予行練習として

「佐野さんは、うちの会社でも美人って評判ですよ」
「佐野さんに憧れるクライアント先も多くて」

このように、佐野さんの良いところとは何か……という結論を導くための情報整理として、佐野さん目当ての男性達への雑談を存分に利用させてもらい、本番に備えた。

そして、いよいよ。
佐野さんがお目当てにしている氷室樹さんが、私の前にやってくる。
この時点では、それなりに予行練習はばっちり。

氷室樹は優雅な仕草で隣の椅子から立ち上がり、私の目の前の椅子に座る。
椅子に座るだけなのに、美しいという単語が似合うなんて羨ましいと、思ってしまった。
しかし、見惚れている時間は、皆無……!

(よし、早速私から切り出そう……!)

「実は……」

と、第一声を私が出そうとした時だった。

(え!?)

突然、氷室樹が両手で、私の顔を挟んできた。
頬が潰れるほど。
< 14 / 229 >

この作品をシェア

pagetop