40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
飛行機でも、樹さんはなにかと気にかけてくれた。
でも私は、そんな樹さんに何かを返せるほど、人間ができてはいない。
そして、私を気に掛ける樹さんの表情は、見ているのが辛くなるほど、苦しそうだった。

(私が、隠し子のことなんか聞かなければ……)

樹さんが空港に現れた時、普段は全く表情が変わらない樹さんが、ほんのりと可愛く微笑んでくれていた。
それを、私なんかの一言で、ぶっ壊してしまったのだ。

(私が言わずにいたら……こんな顔の樹さんを見なくて済んだのに……)

私は、どうすれば樹さんが私に気を使わず済むのかを考えて、寝たフリをするという手段を取った。
せっかくのビジネスクラスを堪能できないのも勿体無いとも思ったが、それよりも、樹さんに腫れ物に触るように話しかけられる方が、ずっと嫌だったから。
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