40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
約束の日は日曜日。
私はすでに席につき、紅茶を頼んでいた。

(待ち合わせでドキドキするの……いつぶりだろう……)

この年にもなると、誰かと待ち合わせをするとなると、ごく限られた人物だけになる。
気心知れた家族か友人。
もしくは、緊張が走る仕事の関係者。
どちらもそれなりの対処法は身に付けてうまくやれるようになったが、氷室さんはどちらでもない。

(こんな時、どうやって気持ちを紛らわせればいいのだろう?)

早く会いたい気もする。
でも、心の準備が整わないから会いたくない気もする。
ふわふわグラグラ、心が揺れ動く、そんな待ち合わせに、私は慣れていない。

氷室さんは、とても良い人だ。
氷室さんと知り合ってから、氷室さんについて紹介されている雑誌を図書館で読んだが、キャッチフレーズには必ず「クール」と入っていた。
もちろん、冷静沈着な部分があることは分かる。
つい先日仕事で失敗したかも……と落ち込んだ時の事をメッセージで話してしまった時も、いつものゆるキャラスタンプは送ってこず、論理的な解決法を真剣に考えてくれた。
その切れ味に、

(そこまで求めてないんだけどな……)

と思ったりもしたが。
そして、日常の中にどんどん氷室さんが入ってくる度に、私は頭の中で呪文を唱えるようになっていた。

氷室さんの事は、好きになってはダメ。

仲良くなった後で、急に離れた後の虚しさを、私は嫌という程経験してきた。
その虚しさ、苦しさから逃れるために、スキルという武器を手に入れた。

それで十分だ。
これ以上、望みたくない。
私は傷つきたくない。
だから今日もあえて、こんな格好だと相手が好きになるわけないだろう……という、オシャレを意識しない服を、わざと着てきた。
先に防御線を張っておくために……。
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