40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「氷室さん、どうして……?」
「体調……悪いって言うなら……俺がいたほうがいいでしょう」

氷室さんは、息を切らせながら、そう言った。
急いで走ってきたのが分かる程、浴衣ははだけていた。

「大丈夫です……1人で、帰れますから……」

掴まれてる手を振り払おうとするが、ぴくりとも動かない。

「俺が送ります。送らせてください」

そう言うと、氷室さんは私の手を掴み、人混みを縫うように歩き始める。

「痛いっ……!!」

私の足は、すでに限界に来ていた。
綺麗な模様の鼻緒は、今や私の足を痛めつける凶器に変わっていた。
氷室さんは、私の声で事態を察したのか、懐から絆創膏を取り出し

「な、何してるんですか!?」

その場で跪き、私の足にできている傷の上に、絆創膏を数枚貼った。
私の足の甲に、氷室さんの指先が当たるたびに、何だか変な気持ちになってしまった。

「どうですか?痛みますか?」

氷室さんは、跪いたまま、私を見上げた。
その態勢が、まるでシンデレラで求婚する王子様のように見えるからか、周囲から黄色い歓声が聞こえてきた。

(恥ずかしい……無理……!)

「氷室さん、大丈夫ですから、もう立ってください!」

私は氷室さんの手を今度は自分から掴み、引っ張り上げた。
それからすぐ、私は氷室さんの手を離そうとした。
でも逆に、氷室さんに掴み返されてしまう。

「言いましたよね、特別な日にすると」

氷室さんの目に、怒りを感じた。
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