40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「え……!?」
「特別な日にするって俺が言ったの、忘れてたんですか?」
「特別な日って………言われましても……」

(私にとっては、氷室さんのような人とこうしているだけで、十分特別だ)

普段は表情がわかりづらく、感情を読み取りづらい氷室さんだが、怒っていることは伝わってきた。

(どうしよう……何と言えば……)

私がためらっていると、飲み物のメニューを持っている私の手に、氷室さんの手が重なった。

(えっ!?)

「森山さん……俺から逃げようとしてませんか?」
「逃げて……なんか……」

(図星だ)

「何故、俺を置いて帰ろうとしたんです?」
「だからそれは体調が……」
「何度も言いますが、俺は医師です」
「それは……そうですけど……」

(こんな時、私どうすればいいの……?)

氷室さんの、私を射るような目を直視できず、私は目線をそらす。

「森山さん。俺を、見てください」
「……すみません……今はちょっと……」
「ちゃんと、話しましょう」

氷室さんが、手を伸ばして私の頬に触れる。
そしてゆっくり、私の顔を正面に戻す。
氷室さんの熱を帯びた目と、私の目が合う。
そらすことは、許されなかった。

「森山さん。俺……」

私は、それを聞いてはいけない気がして、耳を塞ぎたくて仕方がなかった。
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