40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「ここ、氷室さんが予約したんですか?」

私は、咄嗟に話題を変えた。

「はい」
「いつの間に……」
「川越に行く日程が決まってすぐです。ここ、隠れた名店だと聞いていたので、森山さんと一緒に来ようと思いまして……」
「おいくらですか?私、ちゃんと払いますから」
「ダメです」
「どうして……!」
「こういう特別な日は、男に花を持たせてくれませんか?」
「だから氷室さん、その特別な日って何ですか?」

私が訴えかけるように聞くと、氷室さんはまた、私の両手を彼の両手で包んだ。

「森山さんは……男性とお付き合いされたことはないんですよね……?」

それは、喫茶店で何気なく話した内容。
そんなことを氷室さんは覚えていたのかと、驚いた。

「……だから、何だって言うんですか?」

氷室さんのような人に言われると、イヤミのようにしか聞こえない。
だから、ついキツい口調になってしまう。

「だから……」
「っ……!?」

氷室さんが、私の手に口付けしてきた。
脳のキャパが崩壊しそうになった。

「ちゃんと、したかったんです」

氷室さんは、そのまま私の手を力強く握りしめた。
私は、氷室さんからこの先出てくるかもしれない言葉を想像しては消し、また想像しては消しを繰り返したが。

(まさか、私なんかに、氷室さんがそんなこと言うはずない)

これまでメッセージのやりとりの最中でも、喫茶店で話をしていても、わずかに考えた可能性をこれまでの経験に基づいて潰してきた。

私なんかが、選ばれるはずはない、と。
それなのに……。

「森山さん。俺は、あなたのことを、守りたいと思っています。俺の恋人になってください」
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