40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで

追憶

俺は、青い戦闘服に身を包み、生と死の間にいる人間の体を受け入れる。
アルコールの臭いが充満した、白い床と壁、機械、そして数えきれない医療用備品に囲まれている部屋で。
食事をする時間などは皆無。
日々、次から次へと処置が必要な患者が押し寄せてくる。

「お願いします!!!」

あの日も、ストレッチャーに乗せられた、血だらけの患者複数やってきた。
その患者の中に、6歳くらいの男児もいる。
身体中、血に染まっている。
意識は、ない。
心肺も停止。
俺は心臓マッサージを行う。
でも、機械は無常にも鼓動が戻らないことを伝えてくる。
すでに、顎部分に硬直が出ている。

(これはもう、ダメだ……)

蘇生を諦める……という選択をしなくてはならないタイミングだ。
その選択は、客観的には正しい。
その場にいた、医学に精通している者なら誰でも同じ判断をする。
だけど、患者の家族にとって、その選択は間違いでしかない。

かつての俺は、大病院の救命救急センターの中心として働いていた。
冷静に、そして瞬時に判断し、その場での最善をし尽くし続けた。
その……つもりだった。
だけどある日、俺は急に体が動かなくなった。

「どうして助けてくれなかったんですか!」
「先生のせいでこの子が死んだんです!」

そんな叫びが、急に頭から離れなくなったのだ。

俺の選択は、生と死に直結する。
正しかろうが、間違っていようが、重くのしかかる選択の重み。
俺はいつしか、その重みに耐えきれなくなり、選択をすることから逃げた。

あの日のことは、何度も繰り返し夢に見る。
毎日、欠かすことなく。
もう何度、子供たちの死を見させられただろう。
何度、親たちに責められただろう。

ピピピピ。

どこからか目覚めのアラームが聞こえてきて、悪夢がまた終わる。
茶色い、少し汚れた天井に、生活感溢れる寝室に引き戻される。
そして俺は、毎日アラームを止めながらスマホを確認する。
今生きている時間軸が、夢の時間軸よりもだいぶ先にいることを確認する。
それから、汗だくになった体を無理やり叩き起こすためにシャワーへ向かう。

これが、今の俺の繰り返される日常。
そして今日も、明日も明後日も、この日常が繰り返されるはずだと、どこか諦めていた。
そんな日常を救ってくれる存在と、今日この後出会うとも知らずに。
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