40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「森山さーん!?」

怒りがこもった呼びかけが、どこからか聞こえてきた瞬間、彼女の血の気がさらに引き、肌が真っ白になってしまった。
青ざめた唇は、ガタガタと震えている。
それは、まるで病が急速に悪化するかのような変化。
俺は再び身構えた。
倒れてしまうのではないか、と。

だが彼女の次の行動は、俺の想像を超えていた。
スーツを汚した分と飲み物代という名目で、1万円を押し付けてきた。
それから、明らかに彼女を誹謗中傷した佐野さんという人のことを、ブルブル震えながら、俺の婚活相手にどうかと、勧めてきたのだ。

言葉と表情がチグハグな女性はいっぱい見てきた。
そのチグハグさは、時に容赦無く牙を出す。
だが不思議と、目の前の彼女のチグハグさは、そんな怖さを一切感じさせない。
むしろ……俺はこう思ってしまった。

(この女性を、守らなくては)

一体どこから湧いて出てきた感情なのかは分からない。
でも悪い気はしない。
胸はぽかぽかする。

(このまま、もう少し話してみたいかも)

そう思ってしまった俺は、本当なら家に帰すべきなのにも関わらず、もう少し彼女と一緒にいられる方法を取ることにした。

結果的に、この判断は正しかった。
もしこの時、俺がそのまま彼女を帰していたら……二度と彼女との縁は繋がらなかっただろうから。
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