40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
第3章 信じられると、ようやく思えたのに……

不穏

彼は、信じられないくらいに私を大事にしてくれた。
ただ受け取るだけでは申し訳ないくらい、彼は私にたくさんの想いを伝えてくれた。
伝える努力を、してくれた。
それは……分かっていた。

「私は、あなたのために何をすればいいですか?」

あなたの生活をサポートするために、家事を覚えることですか?
ダイエットして綺麗になることですか?
あなたの隣に立つのがふさわしいくらい、知識を身につけることですか?
医療事務の仕事ができるようになった方がいいですか?

思いつく限りの事を聞いてみた。
そんなことしか、思いつかなかった。
その度に、彼は言ってくれた。

「ただ、俺の側にいて欲しい」

と。
それから私を抱き寄せて、頭を撫でてからそっとキスしてくれて、また撫でてくれる。
まるで私を慰めるかのように。

その手は、私を安心させるものだった。
その声を聞くだけで、私はいつの間にか落ち着くようになっていた。
彼の体温なしで眠ることに、いつしか不安を覚えるようになっていた。

だけど。
記憶の片隅に住み続けている、かつての母親がことあるごとに私に問いかける。

【甘い誘いがあったとしたら……まず疑いなさい。必ず、何か裏があるから】

そんなことはないと、思いたかった。
打ち消したかった。
彼に限ってそんなことはないと。

それなのに。

ねえ。樹さん……。
どうして、そんなことを黙っていたの?
嘘を、ついたの?
私を……騙していたの?
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