40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
「やばっ、あの人イケメンじゃない?」
「まぶい!超まぶい!」
「ねえ、横にいるの彼女じゃね?」
「えー嘘!全然釣り合わない!」
「ていうか、私の方がずっとお似合いじゃない?」

明らかに樹さんに対してであろう賛辞と、私への酷評も、同じ電車内のどこかから聞こえてきた。

(一緒にいるのが、私なんかでほんとすみません)

樹さんに……聞こえたのだろうか?
聞こえていたとしたら……どう思っただろうか?
私は、それを知るのが怖かったので、

「次はこのカフェに行きません?」
「そうですね」

そんな風に、近い未来の話をするので精一杯だった。
楽しい記憶で上書きされたはずのこの日の最後に、この出来事はしこりとして心の片隅には残ってしまっていた。

ちなみに樹さんが私のことを

「優花さん」

から

「優花」

と呼び捨てにするようになったのも、我が家でのデートの話が出てしまったのも、この電車の中で決めた、次のカフェデートの日だった。
このカフェデートの日に、私の頭がもしちゃんと働いていたのなら。
呼び捨てはともかく、おうちデートはもう少し先延ばしにできたかもしれないと思うと……少々悔やまれる。
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