40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
樹さんに心配かけたくなくて、黙っていたことがある。
佐野さんの件だ。
結局、真夏の婚活中座事件から、私は佐野さんと1度も会話をしていない。
オンライン上でも、だ。
一緒に仕事をしている別の社員から、佐野さんが急遽別部署に異動になったことまでは聞いている。
だけど、佐野さんがもし私の事についてクレームをつけて、人事部がそれで私を使えない判定をしていた場合、契約が切られるのが11月末となる。
そしてその宣告がされるとしたら……あと2週間後というわけだ。

私はすでに知っていた。
望みの薄い期待をするくらいなら、望みがないと割り切って、次を考えた方が良いと。
そのうちの1つが、副業。
すでにいくつか登録はしてあり、ポートフォリオも複数社に送っている。
面接をしたいと言ってくれている企業もある。

正直に言えば、やっぱり不安で仕方がなかった。
職が無くなるかもしれない、ということが。
だけど、佐野さんのせいで今の安定を失ったとしても、樹さんがいない時代にはもう戻りたくないと、強く思っていた。
それに……。

「優花、大丈夫?」

心配そうに聞いてくれる樹さんに、そっと聞いてみた。
できる限りの笑顔で。

「もしかしたら私、12月から一時的に職無しになるかもしれませんが……それでもいいですか?」

と。
樹さんは、ぎゅっと私を抱きしめながら

「力になれることは、なんでもするから言って」

と言ってくれた。
私は変なことを言ってしまいそうになる前に

「嬉しいです」

と、一言だけ返事した。
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