地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
「   …。  」



ーーえ? なに? どうなの?



普段はうるさいくらいなのに、今は黙って目を閉じている。


しばらくしてもう一口含む。



「うん。   真面目な味。」

「 … 真面目な味?」

「そう。 勉強中ですーって言う、佳乃らしい、佳乃って感じの味だな!」

「… どういう味?」


感想が的を得なくて眉間にシワが寄る。

「…でも… そっか、まだまだって事ね 」

確かに真面目も勉強中も事実だが、なんだか残念な気持ちでコーヒーかすを片付け始めた。


「別に悪いわけじゃないぞ!
新人にしてはうまいし、佳乃らしさが出てるから、このままお前なりに淹れていけばいいと思うよー? 俺は。」



「うーん… 私なり、かぁ…」


なかなか難しい、、と思いながら、また修行に没頭し始めた。



今日はお昼前から、店の並びにある雀荘の客の "たけさん"という中年のおじさんと、創太郎も知らない一見さんのこれまた中年層の男性の二組が、お昼前から来店した。

たけさんは、毎週金曜日のお昼前に必ず訪れる常連さんらしい。


佳乃は勝手に、午前中はお客さんが来ない、と思い込んでいたので、"いらっしゃいませ" なのか、業者さんへの "ご苦労さまです" なのか一瞬迷った。



知らなかったが、アンカサにはフードメニューなる物もある様で、たけさんはランチにペペロンチーノを注文した。



昨日創太郎が一人で作って一人で食べた賄いだ。


ーーーーこれすっごく美味しそうなんだよね…



今日のランチは絶対にペペロンチーノを作ってもらおうと思いながら、皿を洗ったりたけさんの話し相手になったりしながらお昼過ぎまで過ごした。



たけさんは、これからは金曜以外にも出来るだけ沢山来ると宣言して帰っていった。

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