地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
たけさんがたらこスパゲティを完食した頃、立て続けに"いかつい"げんさんと、ゴローさんがやって来た。


「なんだなんだ、今日はみんな珍しいな。 げんさんは2日続けて来るし、ゴローさんはお早いご来店じゃないの」


創太郎が大して驚いてないようにからかう。


お客さんが来店してくれた時の挨拶にしてはなかなかに失礼だ。



ゴローさんはいつもの席に。
げんさんはその反対側、たけさんを挟んで一つ席をあけてカウンターチェアに腰掛けた。


いかついげんさんは、年齢こそ50代くらいに見えるが、背が高く格闘技体型、おまけに悪人顔なので得も言われぬ迫力を醸し出している。


「げんさんは、近くに来る用事でもあったの?」


創太郎が珈琲ミルに2人分の豆を入れながら尋ねる。

「あ、あぁ。まぁ…。」

「あ、僕はねぇ!佳乃ちゃんの様子が気になって。」


大きい体の割に蚊の鳴くような声でもごもご発するげんさんの声に被さるように、元気で朗らかなゴローさんが答える。


「みんな暇だねぇ〜」


なんて失礼な店主なのか。


「コラそうちゃん! 
げんさんもゴローさんもありがとうございます!
たけさんと、もうすぐ一人になるから不安だって話してたところなんです」



創太郎がいちいちチャチャを入れてくるからごまかされがちだが、もうすぐリアルにこのまだ慣れない店に一人ぼっちになるのだ。
皆さんの言葉と気遣いは本気で有り難い。


「僕ら常連はさ、ソウと長い付き合いの奴らも多いんだ。 
佳乃ちゃんの苦労はよーく分かるから、遠慮なく頼ってよ」


げんさんとたけさんが、ゴローさんの言葉にうんうんと頷いている。


そんな三人を前に、珈琲を出し終えた創太郎が改めて佳乃に向き直った。


「佳乃! 俺は嬉しい! 
小さい頃から可愛がって来た姪っ子が、こんなにもみんなに愛されてな!

よく見てみろ。大小様々な頼れる大人達がお前の周りには沢山いる! 
俺は心置きなくスマトラで学校建設にまい進できるってもんだ!!」


途中ずいぶんと失礼なセリフも混ざってたと思うが、なぜかカウンターの三人も、創太郎も"うんうん"頷いている。



創太郎の言葉を経由すると色々素直に受け取れないのがたまに傷ではあるが、常連さん達の優しさは、佳乃にとって心強い物となった。

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